大判例

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東京地方裁判所 昭和63年(特わ)848号 判決

本籍

鹿児島県出水郡野田町上名三七六番地

住居

豊島区巣鴨一丁目一五番二-一〇〇一号

無職

桐野卓也

昭和六年一〇月三一日生

本籍

練馬区春日町六丁目二八六二番地

住居

同区大泉町三丁目三九番二三号

会社員

本條晃

昭和四年四月二七生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官井上經敏、同長﨑誠出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人桐野卓也を懲役一年六月に、被告人本條晃を懲役一年に各処する。

被告人両名に対し、この裁判の確定した日から三年間それぞれその各刑の執行を猶予する

理由

(罪となるべき事実)

被告人桐野卓也(以下「被告人桐野」という。)は、東京都渋谷区円山町五番五号(昭和五九年三月一八日以前は、同都渋谷区道玄坂二丁目一〇番七号)に本店を置き、健康食品の販売を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社である日本ノイホルム株式会社(以下「日本ノイホルム」という。)の代表取締役(昭和五七年九月三〇日から同六〇年九月一七日までの間)で、かつ、同都渋谷区円山町二三番七号(昭和六二年九月三〇日以前は、同都渋谷区道玄坂一丁目一七番九号)に本店を置き、健康食品の販売を目的とする資本金一五〇〇万円の株式会社である日本ビューティ株式会社(以下「日本ビューティ」という。)の代表取締役(昭和五八年七月八日から同六〇年九月一七日までの間)として、右両会社の業務全般を統括していたもの、被告人本條晃(以下「被告人本條」という。)は、右両会社の総務部長(日本ノイホルムにあつては昭和五七年一一月一日から同六〇年六月三〇日までの間、日本ビューティにあっては、同五八年七月八日から同六〇年六月三〇日までの間)としてその総務、経理全般を統括していたものであるが、被告人両名は共謀の上

第一  日本ノイホルムの業務に関し、法人税を免れようと企て、売上を除外し、架空広告費を計上する等の方法により所得を秘匿した上

一  昭和五七年一〇月一日から同五八年九月三〇日までの事業年度における同会社の実際所得金額が二億七八四三万二四三八円あった(別紙一の(1)修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和五八年一一月三〇日、東京都渋谷区宇田川町一番三号所在の所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が八七八二万二三六四円でこれに対する法人税額が三五九二万五二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六三年押第九〇〇号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の正規の法人税額一億一五九八万一四〇〇円と右申告税額との差額八〇〇五万六二〇〇円(別紙一の(2)脱税額計算書参照)を免れ

二  昭和五八年一〇月一日から同五九年九月三〇日までの事業年度における同社の実際所得金額が七億七九四八万六六〇四円あった(別紙二の(1)修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和五九年一一月三〇日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六億四九六一万六五〇五円でこれに対する法人税額が二億七六八七万五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三億三五八三万七七〇〇円と右申告税額との差額五八九六万七二〇〇円(別紙二の(2)脱税額計算書参照)を免れ

第二  日本ビューティの業務に関し、法人税を免れようと企て、架空広告費を計上するなどの方法で所得を秘匿した上、昭和五八年七月八日から同五九年三月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億二八五万六七二円あった(別紙三の(1)修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和五九年五月二九日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五五二五万三四六五円でこれに対する法人税額が二二四五万五九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四二四四万六六〇〇円と右申告税額との差額一九九九万七〇〇円(別紙三の(2)脱税額計算書参照)を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示の全事実につき

一  被告人桐野、同本條の当公判廷における各供述

一  被告人桐野の検察官に対する供述調書三通及び大蔵事務官に対する質問てん末書一〇通(但し、昭和六一年四月一五日付、同月一六日付、同月二一日付、同年五月一〇日付大蔵事務官に対する各質問てん末書は被告人桐野のみについての証拠である。)

一  被告人本條の検察官に対する供述調書三通及び大蔵事務官に対する質問てん末書六通

一  桐野弘子の検察官に対する供述調書一通及び大蔵事務官に対する質問てん末書八通

一  伊関寿雄、谷繁次、阿部信彦(昭和六二年二月二一日付)の大蔵事務官に対する質問てん末書各一通

一  大蔵事務官作成の昭和六一年九月一〇日付領置てん末書

判示第一の一、二の事実につき

一  証人生井周三の当公判廷における供述(但し、被告人本條のみについての証拠である。)

一  生井周三の大蔵事務官に対する質問てん末書四通(但し、被告人桐野のみについての証拠である。)

一  松山宏の検察官に対する供述調書一通及び大蔵事務官に対する質問てん末書三通

一  石上暢子の大蔵事務官に対する質問てん末書二通

一  収税官吏作成の左記の各調査書

1  通販売上高調査書

2  小口売上高調査書

3  期首商品棚卸高調査書

4  仕入高調査書

5  広告費調査書

6  配達費調査書

7  福利厚生費調査書

8  交際費調査書

9  雑費調査書

10  受取利息調査書

11  雑役調査書

12  交際費限度超過額調査書

一  渋谷税務署長作成の昭和六一年一二月一九日付証明書

一  登記官作成の昭和六三年四月一一日付「捜査関係事項照会について(回答)」と題する書面(但し、同年四月一日付け東地特捜第三六四四号による照会に対するもの)

判示第一の一の事実につき

一  収税官吏作成の左記の各調査書

1  期末商品棚卸高調査書

2  支払手数料調査書

一  押収してある日本ノイホルムの法人税確定申告書写(五八年九月期)一袋(昭和六三年押第九〇〇号の1)

判示第一の二の事実につき

一  収税官吏作成の左記の各調査書

1  制作費調査書

2  通信費調査書

3  出張費調査書

4  消耗品費調査書

5  支払利息調査書

6  雑損調査書

7  事業税認定損調査書

一  押収してある日本ノイホルムの法人税確定申告書(五九年九月期)一袋(同押号の2)

判示第二の事実につき

一  収税官吏作成の左記の各調査書

1  売上高調査書

2  宣伝広告費調査書

3  雑収入調査書

一  登記官作成の昭和六三年四月一一日付「捜査関係事項照会について(回答)」と題する書面(但し、同年四月一日付け東地特捜第三六四三号による照会に対するもの)

一  押収してある日本ビューティの法人税確定申告書(五九年三月期)一袋(同押号の3)

(法令の適用)

一  被告人両名につき

1  罰条

それぞれ、判示第一の一、二及び同第二の各所為につき、いずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項

2  刑種の選択

いずれも所定刑中懲役刑選択

3  併合罪の処理

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(いずれも犯情の最も重い判示第一の一の罪の刑に法定の加重)

4  刑の執行猶予

それぞれ刑法二五条一項

二  被告人本條につき

訴訟費用の不負担

刑訴法一八一条一項但書

(量刑の理由)

本件は、日本ノイホルム及び日本ビューティの代表取締役として右両会社の業務全般を統括していた被告人桐野と両会社の総務部長として総務、経理部門を統括していた被告人本條が共謀して、日本ノイホルムの二事業年度分の法人税と日本ビューティの一事業年度分の法人税合計一億五九〇〇万円余をほ脱したという事案であって、そのほ脱額は決して小額とはいえず、ほ脱率も日本ノイホルムの昭和五八年九月期分にあつては六九パーセント余、日本ビューティについては四七パーセント余と高率に及んでいること、被告人桐野は、通信販売の方法による健康食品の売上が当時順調に伸びていたこと等から、将来の不況時に備えて右両会社の簿外の資産を蓄積するために、被告人本條は、被告人桐野の右意向を知りつつこれに協力して本件各犯行に及んだもので、その犯行の動機に特段酌むべきところはなく、両会社の所得秘匿の手段、態様も、通信販売による売上の一部を簿外の郵便振替口座に振り込んで除外したり、返品された商品を帳簿上は廃棄処分したこととし、商品名を変えて販売した代金を除外したり、広告会社の代表者と結託して架空広告費を計上するなど大胆、かつ、巧妙であること(被告人本條の弁護人は、同被告人においては日本ノイホルムの昭和五八年九月期に関する架空広告費の計上について被告人桐野との間で共謀したことはない旨主張し、被告人本條も、同人の収税官吏に対する質問てん末書中及び当公判廷において同旨の弁解をしている。同被告人の関係で取り調べた関係証拠によって窮われる同被告人の経理事務の経験、日本ノイホルムへの入社時期、その後の同社での経理担当者としての職務内容等に照らすと同被告人の弁解どおりだとするには疑問があり、一方、この点について、被告人桐野の検察官に対する昭和六三年四月一三日付供述調書及び当公判廷における供述、証人生井周三の当公判廷における供述と被告人本條の収税官吏に対する質問てん末書、検察官に対する供述調書を対比検討してみると、架空広告費の計上に関する謀議がなされた時期についての被告人桐野と証人生井の供述がくい違っていたり、被告人本條の捜査段階での供述が変遷したりなどしており、そのいずれを信用するかについての合理的根拠となるべき資料の乏しい本件にあっては、被告人両名と生井とが日本ノイホルムの昭和五七年一一月とか同五八年三・四月の時点で架空広告費の計上に関する鳩首協議をしたと判断することについては疑問が残る。しかしながら、被告人本條の関係で取り調べた関係証拠によれば、同被告人の、日本ノイホルムの昭和五八年九月期の決算にあたり、架空広告費が存在することを十分承知しながら被告人桐野に対しこれが二事業年度に跨がって未払費用として帳簿上残ることはしないようにとの忠告をしただけで、これを正規の広告費として計上し、売上除外等を含めた所得隠蔽の経理処理をし、決算報告書を作成し、被告人桐野の了解を得たうえ情を知らない税理士を介して虚偽過少の税務申告をしていたことが認められ、従つて、被告人本條が同桐野と共謀して判示第一の一の所為に及んだことは明らかである。)、被告人桐野は、本件脱税の首謀者であり、本件により両会社に多額の簿外資産獲得の目的を実現させはしたものの、その運用は、会社に対する貢献度という観点からは必ずしも十分ではなかったこと、また、被告人本條においては、経理に疎い被告人桐野に代わって所得隠匿の会計処理を担当する等、本件において重要な役割を果たしたのみならず、両会社を退職した際には、右簿外資産獲得に貢献したこと等を理由に高額の退職金を取得したこと、本件にかかる両会社の法人税の本税・附帯税が完納未了であることなどを考慮すると被告人両名の犯情は悪質で、その刑責は重いと言わなければならない。

しかしながら、被告人桐野は、本件についての税務調査が開始された後、後任の日本ノイホルムの代表者に納税資金に充当するよう申し入れて、同被告人の手元に保有していた会社の簿外資産約一億三八〇〇万円余を会社に返却したこと、被告人両名は、日本ノイホルムの本件脱税にかかる本税につき、その額に比して僅かずつではあるが第三者納付の方法で金員を納付し、今後もこれを継続する旨誓約して反省の態度を示していること、現在の同社の代表者が他社に対する債権を回収するなどして同社の本件脱税にかかる本税等の未納分を納付する旨誓っていること、その他、被告人両名の経歴、稼働状況、被告人桐野には前科や犯歴はなく、同本條についても業務上過失傷害の罪により一度罰金刑に処せられた他には前科や犯歴のないこと、被告人両名が服役することになると、それぞれの家庭に大きな支障が生ずることなど、各弁護人指摘の両被告人にとって有利な、又は、同情すべき事情が認められる。以上のような、被告人らにとって酌むべき事情を斟酌すると、被告人両名に対しては、直ちに実刑に処するよりは、今回に限り刑の執行を猶予し、社会内で自力更正する機会を与えるのが相当であると判断して主文掲記の各刑を量定した。

(求刑 被告人桐野に付き懲役一年六月、同本條につき懲役一年)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 中野久利)

一五、別紙一の(1)

修正損益計算書

日本ノイホルム株式会社

自 昭和57年10月1日

至 昭和58年9月30日

〈省略〉

一五、別紙一の(2)

脱税額計算書

日本ノイホルム株式会社

自 昭和57年10月1日

至 昭和58年9月30日

〈省略〉

一五、別紙二の(1)

修正損益計算書

日本ノイホルム株式会社

自 昭和58年10月1日

至 昭和59年9月30日

〈省略〉

一五、別紙二の(2)

脱税額計算書

日本ノイホルム株式会社

自 昭和58年10月1日

至 昭和59年9月30日

〈省略〉

一五、別紙三の(1)

修正損益計算書

日本ビューティ株式会社

自 昭和58年7月8日

至 昭和59年3月31日

〈省略〉

一五、別紙三の(2)

脱税額計算書

日本ビューティ株式会社

自 昭和58年7月8日

至 昭和59年3月31日

〈省略〉

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